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 明かりが灯いているのは自分の部屋だけだった。
 「じゃあ、あれは何の音だったんだ?」
 と思いながら自分の部屋を見上げた私はギョッとした。

 閉めたカーテンに立っている人のシルエットが映っている。
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 今までいた部屋である。途中で誰かとすれ違いもしなかった。服をハンガーで窓際に吊ったりもしていない…とすれば、お化け関係か…いや、俺には霊感というやつが全くない。そっちは安心だ、などと暗がりの中で考える間もなく、すっとそのシルエットが右から左に動いた…
 滑るような、非常になめらかな動きだった。

 「疲れてるな」と私は自分に話し掛けた。それ以外に理由がない。疲れてるから幻を見ているのだ。
 そんなに疲れるほど仕事はしていないんじゃあ…というもう一人の自分の声は無視することにした。
 生まれて初めての幻を見るほど今の俺は疲れているのだ。

 こうして自分の中では衆議一決、「先ほどのは目の錯覚であった」という結論が出たところでそれを確認するためにもう一度自分の部屋を見上げた。
 「これで何も異変がなければ自分の部屋に帰れる。今ならまだ自分を自分で説得できる。頑張れ、俺の目…」
 しかし、願いもむなしくシルエットは左から右に滑っていった…

 「非常に疲れてるな」と私は自分に念押しをした。それ以外に理由がない。その理由でなければ困るのだ。
 なぜって、現在は午前2時半。近所のコンビニは12時~6時までは閉店しているし、いちばん近いファミレスは1㎞先である。近所に知り合いもいない。おまけに給料日前なので懐も寂しい。あの部屋に帰る以外の選択肢はないのだ。
 もう一度だけ見上げて、それで影が見えなかったらすべて目の錯覚だったことにしよう。

 重大な決意を込めて見上げた部屋であったが、右から左をまたしてもシルエットが移動していった。

 万事休すである。
 あとの私に残されたのは、あの部屋に帰るか、この暗がりの中で朝まで立っているかの選択肢しかなかった。
 どちらをとるべきか。

 しばらく悩んだ後で私は部屋に戻った。
 屋外はあまりに危険すぎる、常に背後がガラ空きである。それに比べればたとえ得体の知れないものがいたとしても自分の部屋なら壁に背を押しつけておくことができる…究極の選択だった。
 
 意を決して部屋のドアを開けたが、当然部屋は出てきたときのままだった。エアコンが冷えた空気をかき回していた。
 それから、空の白むまでの2時間近くを私は壁にピタリと背中を押しつけた不自由な姿勢で過ごした。
 そして、ある事を思い出した…

 その年のゴールデンウィーク、高校時代ともに生徒会の役員を務めた先輩がバイクの事故で亡くなっていたのだった。聞いた時は他のことに取り紛れて人の運命はわからないものだと月並みな感想を抱いただけだったが、そう言われてみれば、あのシルエットの横顔は妙に鼻が高くてその先輩に似ている様な気がし始めた。そして、仲間がみんな帰省しているのはお盆だからであり、今日あたりがちょうどお盆の中日であったはず、ということ…

 そのあと、虚空に向かい
 「先輩、わざわざご心配頂いてありがとうございます。おかげさまでどうにか無事でやっております」などとご挨拶しつつ、朝までの数時間を体を固くしたまま過ごしたのであった。

 ちなみに、その後そういった種類の不思議な体験をしたことはない。
 だから、私は今でも自分に霊感はないと信じている。ぜひ、そうあってほしいものである。

 といったあたりで本日はこれまで。
 皆様、よいお盆をお過ごしください。
 御退屈様でした。

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