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梅雨ですね。
いっときは、ひょっとすると今年は空梅雨でまた、減圧給水だの、時間断水だのの悪夢がよみがえるかと懸念しましたが、どうやら「湯水のように」湯水を使える夏を過ごせそうです。

伊予松山というところは、海の幸、山の幸にも恵まれ、出湯の里で、文学の町で、普段は言うことのないよい街なのですが、毎年6月にドキドキしなければならないのが少々煩わしい。降るのか、降らないのか…しかも、降ったら今日は濡れていかなければならず、降らなければ明日から減圧給水が始まるかもしれず…何というか、も一つスカッと解決みたいな爽快感がない。
ま、何にせよ、完璧というのは望んではいけないのかもしれません。こういう玉に瑕というのもしみじみと味わえるというのが大人というもので、私ももっと大人の階段をのぼらなければなりません(天国への階段でもありますが)。

さて、本日は雨やどりの退屈しのぎにキューカンバーサンドのお話など。
今は亡き、映画監督で、名優であった伊丹十三氏は、戦後の一時期松山で暮らしていたこともあり(松山東に入学後休学、松山南高校の卒業生です)、その縁もあってか一六タルトのCMに長い間登場し、ある程度以上の年齢の松山人にとっては非常になじみ深い存在であります。

その氏はまた優れたエッセイストでもありました。代表作は「女たちよ!」「ヨーロッパ退屈日記」「日本世間噺大系」あたりでしょうか。私は大学時代に一読し(当然、その当時もう既に古い本でした。念のため)、その文章の巧さ、内容の面白さに魅せられ次々とむさぼり読んだものでした。なんというか氏のエッセイは、題材が洒落ていて、機知に富み、それでいて生活感みたいなものからも離れず、貧乏くささと野暮を嫌って品のよさと美しさを求めるといった、まぁ当時半人前の私にとってある意味、学校では習えない人生の教科書のようなものでした。

今、手元に本がないのでうろ覚えで恐縮ですが、おそらく「女たちよ!」の中だったと思いますが「キューカンバーサンド」についてのエッセイがありました。確か、オスカーワイルド(19世紀イギリスの大文学者です)あたりの言葉が導入でイギリスのスノビズム(俗物根性と辞書には出てきますが、あまりうまく訳せてないような気がします)とは何かを知ろうとすればキューカンバーサンドを避けては通れないみたいなことが書いてありました。
で、料理上手としても名のあった氏らしくレシピが書いてあります。そのレシピというのも単純明快で

1、食パンの耳を切り、バターを塗る。
2、その上に軽く塩を振り、きゅうり(つまりキューカンバーです)の薄切りを乗せ、塩を振る。
3、バターを塗った食パンでふたをする。
4、しばらく放置し軽く馴染んだら出来上がり、長方形になるよう二つに切って食べる
みたいなものだったと思います。注意書きとして、上記以外に何の手順も足してはならない。つまりまあ、マヨネーズなんか使うなよ、ということが書いてありまして。

皆様のご推察通り、さっそく作りました。で、食べた感想というと…なんていうんですかねえ…、プレーンというかシンプルというか…、まあざっくばらんに言うと「そのまんま」みたいな…
確か伊丹さんはケチくさい味とおっしゃってた気がします。

ただ見様によっては、これこそまさに「スノビズム」、つまり上流階級風の極致とも言えるわけで。

「どう?母の作ったキューカンバーサンドだけど食べる?」
「頂くわ」…「お母様、他に何か挟むのをお忘れになってないかしら。例えばハムとかツナとか」
「これは昔からずっとこのままだよ」
「…そうね。すごくいいお味」「でも、マヨネーズがあれば少し掛けても美味しいかも」
「気がつかなくてごめんね。我が家は代々肉体労働をした人がいないのでとても薄味に慣れてしまってて」
「…ちょっと待って。ジャストモーメントプリーズ!塩加減も絶妙。ヴェリーグッ。私にぴったりの上品で控えめなお味。労働者階級じゃあるまいし、これに何かを掛けるなんて信じられない。まさにこのお味よ。」
「今、マヨネーズを持ってくるよ」
「いらない。むしろ、ちょっと味が濃すぎるくらいよ。我が家はもっと薄味だから」

コント仕立てにしてみるとこんなところでしょうか。

確かに、あの味は「上品」とか「伝統」とか、あるいは「違いの分かる」とかいう能書きがついて初めて成立する「奥深い」ものでございました。
とはいえ、5月の終わりからこの時期にかけていつも久しぶりにあれをやってみようかななんて思ってしまうのです。
これも隠していても表れてしまう血のゆえでしょうか。

なんて、とんでもないオチがついたところで本日はこれまで。
ご退屈様でした。

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